ヨガが教えてくれる、心を整える八つの段階

2026年7月17日

ポーズだけがヨガではない

ヨガと聞くと、多くの人はポーズを思い浮かべると思います。片足で立ったり、身体を大きく反らせたり。写真映えするポーズばかりが目に入りやすいので、それも無理はありません。

けれどヨガの伝統的な教えには「八支則」と呼ばれる、心を整えるための八つの段階があります。ポーズはそのうちのひとつにすぎません。

八つの段階とは、ヤマ(禁戒)、ニヤマ(勧戒)、アーサナ(坐法)、プラーナヤーマ(呼吸法)、プラティヤハーラ(感覚制御)、ダーラナ(集中)、ディヤーナ(瞑想)、サマーディ(悟り)です。

サンスクリット語の名前が並ぶと難しく感じるかもしれませんが、順番に見ていくと日々の暮らしにも活かせる考え方ばかりです。

まずは日常生活から、ヤマとニヤマ

意外に思われるかもしれませんが、八支則の最初の二つはポーズでも呼吸でもありません。日常生活の中での心がけです。

ヤマは「してはいけないこと」、ニヤマは「心がけたいこと」を指します。ヤマには非暴力、正直、不盗、貞操、不貪という五つの項目があります。ニヤマには清浄、知足、修練、聖典の学習、信仰という五つの項目があります。

言葉だけを見ると堅苦しく感じるかもしれませんが、要は「自分にも周りにも誠実であること」です。完璧に守れる人はいません。守れなかった日があってもそれに気づいて次の日にまた心がけてみる。その繰り返しでいいのです。

たった一日だけでも意識できた日は、どこか心が軽くなり物事に正面から向き合えるような、すっきりとした心地よさを感じられるはずです。

アーサナは瞑想のための準備

ヨガのポーズを指す「アーサナ」は八支則の三番目にあたります。アクロバティックな動きを思い浮かべがちですが、本来の目的は長く安定して座り続けられる身体をつくることです。

基本の姿勢は骨盤から頭のてっぺんまでをまっすぐに保つこと。座っていても立っていても同じです。オフィスの椅子で背もたれに寄りかからず背筋を伸ばしてみたり、電車の中でまっすぐ立ってみたり。日常の中でも意識できる瞬間はたくさんあります。

ポーズの多くは前屈、後屈、捻転のどれかに当てはまります。前屈はお腹を守り、心を静めてくれるポーズです。後屈は胸を開いて生きる力を呼び覚ましてくれます。捻転は内臓に優しい刺激を与え、穏やかな気持ちに導いてくれます。

大切なのはポーズの形を真似るだけでなく呼吸を合わせることです。呼吸のないポーズは電源の入っていない機械のようなもの。形だけでは本来の効果は生まれません。

呼吸で心の状態を変える

四番目のプラーナヤーマは呼吸法のことです。プラーナとは「生命エネルギー」を意味する言葉で、呼吸を通じてそれを体内に取り込むと考えられています。

ヨガの基本的な呼吸は、お腹を使う腹式呼吸です。鼻から吸ってお腹をふくらませ、ゆっくりと吐きながらお腹を戻していきます。緊張すると呼吸は浅く速くなり、リラックスすると深くゆっくりになります。これは逆も成り立ちます。呼吸を意識して整えることで心の状態そのものを変えることができるのです。

緊張しやすい人ほど、まず呼吸から整えてみてください。特別な道具も準備もいりません。

感覚に振り回されない、集中する

五番目のプラティヤハーラは感覚を自分の内側へ向けることです。美しい景色、心地よい香り、甘いものの誘惑。人の心は外からの刺激にどうしても揺れ動きます。

感覚を閉ざす必要はありません。ただ外からの刺激に振り回されるのではなく、自分の内側からも意識を向けてやること。呼吸の音や心臓の鼓動に耳を澄ませてみる。それだけで揺れ動く心が少しずつ落ち着いていきます。

六番目のダーラナは集中することです。一点に意識を向けたつもりでも次の瞬間には別の記憶や考えごとに気持ちが移ってしまう。それが人間の心です。

だからといって集中をあきらめる必要はありません。心が彷徨っていることに気づいたら、そっと戻ってくればいいのです。それを繰り返すうちに少しずつ集中できる時間が長くなっていきます。

八支則は完璧を目指すためのものではない

ここまで駆け足で八支則の入り口を紹介してきました。まだ先にはディヤーナ(瞑想)やサマーディ(悟り)という段階が続きますが、それはこれまでの土台があってこそたどり着けるものです。

大切なのは、すべてを一度に完璧にこなそうとしないことです。ヤマとニヤマを毎日100%守れる人はいません。呼吸も集中も、うまくいく日とそうでない日があります。

それでも少しずつ自分の心と身体に意識を向けていく。そのプロセス自体がヨガなのだと思います。ポーズが上手にできるかどうかより、自分自身とどれだけ誠実に向き合えているか。それこそが八支則が教えてくれる、いちばん大切なことなのかもしれません。